台所の蛇口は家庭の水まわりの中で最も使用頻度の高い箇所と言われています。そう簡単に壊れるものではありませんが、10年~15年程度でトラブルが出始めることが多いです。食洗器を購入して蛇口を分岐させる必要が出たり、使用環境の変化に合わせて蛇口の交換を検討する方も多いかもしれません。
ここでは台所の蛇口の交換の実践編ということで、分岐水詮付きワンレバー混合栓の交換作業を解説します。築40年超の物件であり、数回の設備更新を経ているお宅での作業です。築古物件でありがちですが、点検口内の奥行の狭さ、水詮金具の固着などが作業の難易度を上げる結果となっています。サンダーでの切り回し作業や、フレキホース(ベンリー管)を切断してねじ山を作った上での配管の調整などは素人の方には敷居が高いかと思います。まず必要な道具が手元にないことがほとんどでしょう。サンダーを使った作業は慣れていないと危険ですので、同じような作業が必要なケースではプロに依頼した方が無難でしょう。
既設蛇口の状態の確認
まずこれから交換するキッチンの蛇口と、キッチン下の状態を確認しましょう。
設置されている蛇口について
まず蛇口を見てプロならすぐ分かることなのですが、この蛇口はノーマルの蛇口に、後から食洗器用の給水管を伸ばすために分岐水詮金具を取り付けています。
余談にはなりますが、分岐水詮をある意味無理やり付けて使っているわけですので、ノーマルの状態の比較の上では蛇口本体へのストレスは増えます。交換作業には全く影響はありません。
キッチン下の状態
次にキッチンの下を覗いて状態を確認してみましょう。
奥に四角い白い板がねじで止められているのが見えます。これが点検口をふさいでいる板です。これを取り外すと止水栓や給水管・給湯管が見えます。
点検口内の状態
点検口をふさいでいる板のねじを小さめのプラスドライバーを使って外していきます。今回は点検口があり、その奥に給水管・給湯管が設置されているタイプのキッチンでしたが、点検口が設置されていないキッチンもあります。点検口が設置されていないキッチンの場合は、キッチン下のスペースに給水管・給湯管、それぞれの止水栓がむき出しにの状態で縦に通っており、点検口がある場合と比べて作業はしやすくなります。
点検口内の作業を行うにあたって、 キッチン下のスペースに体を入れることになります。狭い上にキッチンの排水トラップやジャバラホースが作業の邪魔になりますので、蛇腹ホースを取り外してから作業を行った方が楽です。排水トラップについては、長年脱着していないとシンクとトラップの間にあるパッキンが劣化している可能性が高く、一旦取り外してしまうとパッキンの交換が必要となります。パッキンの用意があれば蛇腹ホースを取り外しても問題ありませんが、用意がなければ安易に取り外さない方が得策です。
このように点検口が設置されているキッチンは、傾向としては築20年以上経過した物件に多くみられます。
この物件では、点検口が左右2枚設置されていました。キッチン下のスペースには大きな排水トラップが縦に通っているため、作業はとてもしづらくなります。
点検口内の状態を確認したところ、写真中央に見える給水管のフレキホースのナットの部分が青っぽく見えるのが分かると思います。これはカビです。逆止弁とフレキホースの接続部にはパッキンが入っているのですが、このパッキンが劣化すると、その部分から微量の水漏れが起こります。その結果としてカビが生えた可能性が高いです。結露によってカビが発生することもありますが、この点検口内の他の部分はカビていなかったため、恐らくパッキンが原因でしょう。長年、微量に水漏れをし続けていたと思われます。
既存の台所蛇口の外し方
それでは実際に台所の蛇口交換作業に入りましょう。
今回使用する工具
左から、①取り付け工具、②六角レンチ、③プラスドライバー、④ナット取り付け工具、⑤、⑥モンキーレンチ、⑦ナット締め付け工具、⑧ナット締め付け工具の付属品です。
- ①新しい蛇口を購入したときに入ってくるものです。蛇口本体を固定しているナットネジ専用の工具です。
- ②蛇口本体根元にあるビスネジや、アダプターを取り外すときに使用します。
- ③蛇口本体内部の部品等を緩めるときに使います。
- ④点検口からの作業の場合、手が届かないところのナットを締めたり緩めたりする必要が出ます。台所の蛇口の場合、点検口から見て一番奥の蛇口を固定している大きなナットを緩めるときに使います。
- ⑤点検口のふたを外すときに使います。
- ⑥止水栓や逆止弁、平行ニップル、フレキホースのナットなどの脱着に使います。
- ⑦蛇口本体を、裏側(点検口側)から固定している大きなナットを取り外すときに使います。
- ⑧これは⑦の付属品で、ナット締め付け工具をまわすときに力を伝えるため、⑦に差し込んで使います。
止水栓を閉める
まず初めに、台所下の止水栓で水、お湯を止めます。正面向かって右側がお湯、左側が水がほとんどです。長期間触れていない止水栓のバルブは固着してなかなか回せないことがよくあります。バルブに無理に力を入れ過ぎると止水栓が破損し、水漏れを起こすことがあります。力を入れても回せない場合には、屋外のメーターボックス内にある建物全体の止水栓(元栓)を閉めましょう。
また、バルブに無理に力を入れて止水栓からの水漏れが始まった場合は、止水栓を新しいものに交換しましょう。
上の写真が屋外に設置されている、建物全体の止水栓(元栓)です。このタイプはバルブタイプですが、ハンドル型のタイプもあります。
フレキ管を外す
点検口の中にバルブが2つあります。これが台所の水とお湯を止める止水栓です。止水栓にはフレキ管がナットで接続され、その先は逆止弁に同じくナットで接続されています。それぞれのナットをモンキーレンチで緩め、フレキ管を外します。
なお、逆止弁とは、逆流を防止する弁のことで、上の写真の上部に写っている、白いテープが巻いてある部品のことです。これは少し古いタイプの逆止弁です。
ナットを緩めると上の写真のようにフレキ管は取り外すことができます。給水側と給湯側の両方とも外しましょう。
なお、点検口があるタイプのキッチンの場合、作業中の体勢は上の写真のような状態になります。キッチン下のスペースのモノをどかして整理整頓した上で作業をしましょう。
蛇口レバーを外す
次に、蛇口本体のレバーを外します。台所蛇口のレバーは、蛇口本体にネジで固定するタイプと、差し込むだけのタイプの2種類があります。今回は、はめ込み式のタイプでした。上に持ち上げると外せますが、それなりの力が必要です。蛇口レバーが外せたら蛇口レバーの下の部分を反時計回りに回していくと外せます。
蛇口カートリッジを外す
蛇口のレバーを外せたら次に蛇口本体の上部にかぶさっているリング状のカバーを外します。これはカートリッジを固定するためのカバーで、反時計回りにまわすと外せます。
蛇口本体のカバーを外したら、カートリッジは蛇口本体に乗せてあるだけなので上に持ち上げたら外せます。
蛇口根元にあるビスを外す
次に、蛇口本体の根元に丸い穴があり、その穴のカバーを外すと、ネジが出てきます。プラスネジか、六角穴付きボルトです。六角穴付きボルトだった場合、六角レンチが必要になりますが、新しい蛇口を購入すると付属品として六角レンチがついてきます。このネジを外して蛇口本体を外せる状態にしましょう。
上の写真では、蛇口の手前にネジが写っていますが、通常は蛇口の裏側に回されているはずです。この部分は本来手で回すことができる構造なのですが、長年使用していると固着していて手では回せないことが往々にしてあります。その場合はモンキーレンチや大き目のペンチなどを使って、プラスドライバー・六角レンチでネジを外せる位置まで回しましょう。
今回のお宅では、食洗器への給水のために、蛇口に後付けで分岐水詮の金具をかませてあります。上の写真は、その分岐水詮の金具を外したところです。
蛇口本体下部のネジを取り外せば、蛇口本体は持ち上がる状態になります。土台となっているアダプターの内側に水とお湯の配管とシャワーヘッドに繋がる配管がまとめて入っています。うまくアダプター内のスペースに合わせて蛇口を持ち上げるようにしてください。蛇口の下の給水管、給湯管が事前に外れていれば、蛇口を上に持ち上げることで水・お湯・シャワーヘッドの配管も一緒に抜き取ることができます。
しかし今回は、ネジを外しても蛇口本体や配管類を引き抜くことができませんでした。諸々チェックしたのですが、原因は蛇口本体と、蛇口本体を載せて固定する役割のアダプターとが固着しているようでした。
アダプターを外す
通常、蛇口が外れると、蛇口本体を固定するアダプターが残ります。アダプターを上から覗くと、ネジが2ヶ所確認できるはずです。これも六角レンチで外し、アダプターをキッチンの台の穴から外します。
しかし今回はアダプターの前に、蛇口本体が外れない状況でした。結果的に、サンダーを使って蛇口本体とアダプターを切断し、取り外すことを試みました。
サンダーは使用時はかなり注意が必要な道具です。歯が高速で回転するため、切断しているものの破片が飛ぶことがあります。目の保護のためのグラスをするべきです。また、サンダーの歯が引っかかったときに手に力が入っていないと手を持っていかれることがあります。結果的になん十針も縫うような大けがをする職人が後を絶ちません。使用する場合には両手でしっかりと固定をして使いましょう。
近頃テレビで女性タレントがDIYを行う番組をよく目にしますが、サンダーを使った工事は特に女性にはお勧めできません。使い方によっては本当に便利な道具なのですが、説明した通り取り扱いにとても注意が必要で、ミスしてケガをしたときに重傷になりがちな道具です。使う方は自己責任の上、細心の注意を払って使いましょう。
上の写真は、蛇口とアダプターを切り離し、残ったアダプターの一部を分解しているところです。
上の写真はようやくアダプターをとめているネジまでたどり着けたところの様子です。いざプラスドライバーでネジを回そうとしたところ、びくともしませんでした。ネジがアダプターと完全に固着しています。よって、アダプターの最下部の輪の部分を縦にサンダーで切り、分解することで取り除きました。
通常このような作業風景になることは稀ですが、蛇口のアダプター部分が固着することは起こり得ます。体感的にですが、お伺いした現場の10件に1件程度の割合で、蛇口とアダプターが固着してスムーズに外れない状態になっています。台所の蛇口は使用頻度が高い上、そう滅多に壊れず10年以上使い続けることが多いため、仕方のないことでしょう。
切り離した後は、上の写真のようにすっきりとします。
新しい台所蛇口の取り付け方
古い蛇口とフレキ管を取り外すことができたら、新しい蛇口を取り付ける作業に入ります。
新しいアダプターを取り付ける
まずはアダプターを取り付けましょう。アダプターには「後側」と、赤く書かれています。この文字が蛇口の後側に来るようにアダプターを固定することになります。
上の写真を見ると分かりますが、アダプター本体から2本の白い樹脂製のバンドが伸びていて、途中に金属のプレートがぶら下がっています。まずはこのぶら下がっているプレートを、キッチンの台の穴に入れます。
ぶら下がっている金属のプレートを穴に入れた後、樹脂製のバンドのつまみを持ち上げると、ぶら下がっている金属プレートが上に上がってきます。キッチンの台の板を、アダプターの金属プレート2枚を使って挟む状態になります。このとき、「後側」と表記された面がちゃんと後ろ側に回っていることをあらかじめ確認しましょう。
この状態を保持しつつ、六角レンチでアダプターの両サイドの六角穴付きボルトを締めます。しっかりと締め付けましょう。
新しい蛇口本体を取り付ける
キッチンの台の穴にアダプターを固定できたら新しい蛇口本体をアダプターに載せて固定していきます。
まず蛇口から伸びているフレキホースを揃えてアダプターの穴の部分から差し込み、最後に蛇口本体をアダプターに載せます。
次に蛇口本体とアダプターを上の写真に写っているビスで固定します。固定するのに使うビス類は、購入した蛇口の取扱説明書の端に、小さなビニール袋に入ってホチキス止めされていることがほとんどです。気づかずに取扱説明書と一緒に破棄してしまう方がよくいるので注意しましょう。
上の写真に写っている小さな3つの部品のうち、ピンク色のパッキンの環がされているのがビスです。その左下の水色の皿状の部品がキャップです。白い筒状のモノは、ビスの締め付けに使う工具です。
蛇口の穴と、アダプターの穴を合わせます。そしてビスをビス締付工具にはめ込みます。
この状態でビスを蛇口の穴に差し込み、ビス締付工具をまわしてビスをしっかりと締め付けましょう。
最後にキャップをはめ込み、新しい蛇口本体の固定は完了です。
分岐水詮を取り付ける
食洗器から伸びる給水ホースに接続するための、分岐水詮を取り付けます。もともと分岐水詮付きの蛇口を用意していますので、蛇口を購入したときに当然専用の分岐水詮が付属しています。
分岐水詮を蛇口に取り付けるのは簡単で、モンキーレンチで締めつけるだけです。次に、食洗器から伸びている給水ホースを、分岐水詮に差し込みます。この時、給水ホースと、分岐水詮の間にパッキンを挟み込む必要があります。パッキンは蛇口購入時に付属してきます。
「カチッ」っと音がするところまでしっかり差し込みます。これで食洗器側への給水も行えるようになりました。
フレキ管・逆止弁・平行ニップルを交換する
通常は、新しく購入した蛇口に付属しているフレキホースの先にもともと逆止弁がついていて、その逆止弁をキッチン下の止水栓に「カチッ」っと差し込むことでロックされ、接続作業が完了となります。
しかし今回のお宅では、前回リフォームしたときだと思われますが、蛇口の取り付け位置が横に移動させたようです。結果として、給水管と給湯管の止水栓の位置まで、蛇口本体から伸びるフレキホースが届かず、フレキ管を使って延長させていました。フレキ管で延長させるにあたって、逆止弁・平行ニップルが必要になるわけです。逆止弁は給水の逆流を防ぐためのもので、平行ニップルはオスネジとメスネジを変換するためのものです。
台所蛇口のフレキホースは13mmのタイプがほとんどです。止水栓からフレキ管で延長させると、フレキ管の先はメスネジの状態になっています。ここに平行ニップルを接続させると、オスネジの状態になり、蛇口から伸びるフレキホースの先の逆止弁に接続することができるようになるわけです。
逆止弁は新しく購入した蛇口に付属品として入っていますが、平行ニップルは別途用意する必要があります。
古いフレキ管を取り外す
新しいフレキ管を接続する
フレキ管は、何種類かの長さのものが、「ベンリー管」という商品名でホームセンターなどで売っています。キッチン下の状態に合わせて適当なタイプのものを選んで用意します。併せて、フレキ管のパイプ径に合った平行ニップルを準備する必要があります。
用意したフレキ管のメスネジ側に平行ニップルを取り付けます。そのあと平行ニップルに逆止弁を取り付けます。このときモンキーレンチが2つあると便利です。フレキ管側を固定するのに1つ使い、取り付ける側を回すのに1つ使います。片方はペンチなどでも代用できます。
新しいフレキ管を止水栓と、蛇口から伸びるフレキホースの先に接続しましょう。モンキーレンチでナットを締めるだけです。
止水栓を開ける
給水側、給湯側のフレキ管の交換が完了したら、作業は一通り完了です。閉めていた止水栓をを開けて、蛇口を開けて動作確認しましょう。水が出るか、お湯が出るか、水量の調整はスムーズにできるか試してみましょう。
水漏れがないかチェックする
最後に、各部から水漏れが起きていないかをよくチェックしましょう。水漏れが起きていなければ蛇口交換完了です。
点検口がある家は特に、時々点検口を開けてみることをお勧めします。点検口のふたを閉じ、キッチン下のスペースに調理用具などを収納すると、ほとんどのご家庭ではトラブルに気づくまで点検口に触れることがなくなってしまいます。すると、点検口の内部で微量の水漏れが起こっても気づくことはまずありません。何かのきっかけで気づいた時には、既に長い時間をかけて微量の水が漏れ続け、点検口内の建材(木材)が相当にひどく腐っているということがよくあります。
止水栓や配管の接続部などの水漏れは、早期に気づけばわずかな部品代だけで済みます。素人の方でも、止水栓やフレキ管の交換であればできると思います。定期的なチェック、早めの対処が何より重要です。
まとめ
今回は後付けで分岐水詮金具をはめ込まれている古いキッチンの蛇口を、もともと分岐水詮付きの蛇口(TOTOのTKGGシリーズ)に交換しました。また、点検口内を確認したところ、リフォーム歴がありフレキ管で延長させているキッチンでしたが、フレキ管が痛んでいたためにフレキ管も交換しました。作業の中で、蛇口本体とアダプターが固着しているために取り外せず、サンダーを使って切断、分解する作業が発生しました。
これで恐らく蛇口自体は今後10年以上は問題なく使い続けることができるでしょう。しかし点検口内の止水栓やフレキ管については念のためにできれば半年に1度、水漏れなどの不具合が起きていないかをチェックすることが大切です。チェックを欠かさなければ当面快適に使い続けられるはずです。
キッチンの蛇口の交換を検討している方は、ぜひ今回の交換手順などを参考にしてみてください。